大判例

20世紀の現憲法下の裁判例を掲載しています。

東京地方裁判所 昭和37年(行)20号 判決 1967年11月29日

原告 ワカバ交通株式会社 外一名

被告 東京陸運局長

訴訟代理人 上野国夫 外四名

主文

原告らの第一次請求をいずれも棄却する。

被告の原告ワカバ交通株式会社に対する昭和三六年八月三一日付六一東陸自旅二第五四八二号指令書、原告はエス交通株式会社に対する同日付六一東陸自旅二第五五三〇号指令書による各一般乗用旅客自動車運送事業免許申請却下処分を取り消す。

原告らのその余の請求を棄却する。

訴訟費用は、これを三分し、その一を原告らの負担とし、その余を被告の負担とする。

事実

第一請求の趣旨

一  第一次請求

1  被告の別紙目録記載の各号の者に対する昭和三六年八月三一日付一般乗用旅客自動車運送事業免許処分(以下「本件免許処分」という。)及び原告らに対する同日付一般乗用旅客自動車運送事業免許申請却下処分(以下「本件拒否処分」という。)がいずれも無効であることを確認する。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

二  第二次請求

1  本件免許処分及び本件拒否処分を各取り消す。

2  訴訟費用は被告の負担とする。

第二請求の原因

一  本件免許処分の無効確認・取消請求について

1  別紙目録記載各号の者は、いずれも設立中の会社の発起人代表であるが、道路運送法施行規則六三条一項による被告の昭和三六年一月七日付公示「東京都区内における一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力の増強について」に基づいて一般乗用旅客自動車運送事業の免許の申請をし、被告は、右免許につき運輸大臣から権限の委任を受けた行政庁であるが、同年八月三一日に右申請に係る自動車運送事業につき本件免許処分をした。もつとも、右免許については「この免許の効力は会社の設立登記によつて生ずる」旨の条件が付された。

2  ところで、設立中の会社は、権利能力なき社団であり、社会的実在であるといつても、会社設立という目的のもとに結合された社団であつてその目的の範囲内においてのみ権利義務の主体たりうるにすぎない。成立後の会社のようにその事業目的の範囲内で一般的な権利能力を有するものではない。このことを発起人の点から考えると、発起人は設立中の会社の機関であるから、当然設立に必要な事項に関してのみ権限を有し、その範囲においてのみその行為の効果が設立中の会社に及ぶのである。しかも免許事業を目的とする会社に対する当該官庁の免許がその会社の成立要件となるものではない(大審大正三年(オ)第八二六号大正四年一二月二五日連合部判決参照)。そうすると、本件免許申請行為は発起人の権限に属さず、設立中の会社とは無関係な行為であつて、発起人代表に対する免許はその発起人個人に対するは格別設立中の会社に対する免許ではない。また設立中の会社のような権利能力なき者の申請及びこれに対する免許を認めていないし、仮りに申請者を自然人又は法人に限らず、社会的な実在たる実質を具えた団体を含むものとしても設立中の会社は除外されるべきものであることは、道路運送法の各規定をみても当然である。すなわち自動車運送事業を経営しようとする者は運輸大臣の免許を要し(同法四条)、右の免許を受けようとする者は運輸大臣に申請することになつている(同法五条)ところ、右の申請をする者はその申請時及び免許時において実在の人格者たる自然人又は法人に限ることは行政法の法理から明らかである。のみならず、同法六条の免許基準の中に「当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること」及び「当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有するものであること」の二点があつて、これにもとづき審査すべきものと規定する。右規定によれば、設立中の会社は到底該当するものでないことが明らかである。けだし申請者自体が成立するかどうか未定であるのに、成立後の適切な計画だとか、適確な能力だとか判定のしようがないからである。適切な計画、適確な能力の根本的にして必須の要件は、その者が現に法律上の人格者であることである。同法六条は免許の申請に当つては、その申請書の中に事業計画を記すべきことを定めているが、その詳細を規定した同法施行規則六条によると、主たる事務所、営業所の名称、位置を始めとして自動車の総数、種別等あるいは車庫の位置、収容能力等の具体的な事項を記載すべきものとする。そしてこの事業計画なるものは単に将来の目論見とか、方針とかではなく、計画をそのまま実施すべきことが要求されている。同法一九条にいわく「天災その他やむを得ない事由がある場合の外事業計画の定めるところに従いその業務を行わなければならない」と。またこの事業計画を変更するときは運輸大臣の認可を必要とし(同法一八条)、運輸大臣において事業者が計画に違反していると認めるときは、事業計画に従つて業務を遂行すべきことを命ずることができる(同法一九条二項)。しかも勝手に変更したり、違反したりした場合には罰則がある(同法一三〇条)。商法上会社の目的たる事業は取締役会の意思決定により代表取締役が執行すべきものとされているにもかかわらず、もし設立中の会社に免許を認めるとすれば、発起人の作成した事業計画にその業務の執行を拘束されることになる。また発起人は成立後の会社の業務に関して何ら代表権限なく従つて業務に関してなした行為の効果は成立後の会社に及ばないという観点からみれば、会社や取締役等は発起人の作成した事業計画に拘束されないことになり、前記法条は空文となる。とくに成立後の会社や役員等が業務執行等に当り発起人の作成し提出した事業計画を変更したり、従わなかつたといつて処罰されるに至つては論外である。(もつとも地方鉄道法一三条、軌道法二三条のように設立中の会社のための発起人申請を認める法の明文の規定がある場合以外許されるべきものでない。)法が発起人の申請を認めていないことは右の点からも明らかである。次に申請書に事業の施設、事業収支の見積その他運輸省令で定める事項を記載した書面を添付すべきものとしているが(同法六条)、この書面には事業用固定資産とか、事業資金及びその調査方法とか詳細なる事項を記載すべきものとしている。しかもこの書面が単なる作文ではなくして前記免許基準を審査するに足る具体的事実の記載でなくてはならないこと勿論である。そうだとすると、これまた設立に必要な行為のみなしうる発起人の権限でないことはいうまでもない。次に同法六条の二は免許の欠格事由に関し、法人が申請者たる場合その役員につき審査すべきことを規定している。しかし設立中の会社については何ら規定がない。もし設立中の会社に対する免許が認められるとすれば、免許前発起人につき欠格事由を審査するほかなく、そうすると会社成立後選任された役員は欠格事由の審査を免れることとなつて法意に反することは明白あでる。同法施行規則四条二項一二号の規定は同法の認めない事項を規定したもので無効のものというべく、これを根拠として本件免許処分の有効性を云為するのは失当である。けつきよく理論的に考えても、法令の各規定の趣旨をみても設立中の会社による免許申請が認められていないことは一点の疑いもない。よつて設立中の会社の発起人には免許申請資格がなく、またかかる発起人代表に対し又は発起人代表を通じもしくは通ぜずその成立を条件としても未成立即ち不実在の会社に事業免許をすることは行政処分の相手方を欠くもので道路運送法の認めざるところである。本件免許処分は違法の申請にもとづき免許を得る資格なきものに免許したもので、その違法は重大かつ明白であり、その瑕疵は治癒することのできないものであるから、法律上当然無効である。かりに無効でないとしてもとうてい取消しを免れないものである。

3  ところで免許については、道路運送法六条の免許基準によれば、申請者が「当該事業の遂行上適切な計画」を有し「自ら適確に遂行するに足る能力」を有するというだけで無制限に免許されるものではなく「当該事業の開始が輸送需要に対し適切」であり、「当該事業の開始によつて事業地域に係る供給輸送力が輸送需要力と不均衡とならない」ものであることを要することことからして、免許台数については数量的な制限が存在するのである。免許台数に量的制限があるとなれば、申請者が多数の場合においてその運送事業遂行の能力、事業計画等の免許基準にてらしてより優秀なるものから順次免許が与えられることになるから、そこにおのずから申請者相互間に免許に対する競争の関係が生ずるわけである。被告は新規免許の申請者に対する免許台数を昭三六年一月七日付公示で八〇〇両、同年八月二一日付公示で一〇〇〇両合計一八〇〇両とした。これに対して申請をした既存会社七〇、設立中の会社の発起人代表四〇八、及び個人若干のところ、免許は既存会社八で一六〇両、発起人代表五五で一一〇〇両及び個人一〇八〇両(個人分は〇・五両を免許一両と換算)で、免許車両数は悉く割り当てられ残存するものはない。然らば本件拒否処分が無効とされまたは取り消された場合において原告に対して割り当てるべき車両数は零であるから、結局免許はできない。まして右免許台数は東京陸運局自動車運送協議会の諮問を経たものであるからなおさらのことである。そうすると、自動車運送事業免許の申請者として原告らと競争の関係にある訴外発起人代表らに対してなされた本件免許処分が前記のとおり無効または取り消しうべきものであり、かつ後記のとおり原告らに対する本件拒否処分もまた無効または取り消しうべきものである以上、原告は本件免許処分によつて自己が受くべき免許という法律上の利益取得の機会を現に侵害されているから、原告らがかくの如き不利益、不安、かつ危険な地位にないことを確定するにつき本件確認の利益を有する。しかも、本件免許処分が形式上存在することにより、またこれを有効なりとみなす被告の態度により本件免許につき競争の関係にある原告らの免許を受ける利益が具体的に侵害されているから、かかる競争関係においては正当な申請者たる原告らが免許を受けるという利益が当然保護の対象となることはいうまでもない。したがつて、原告らは本件免許処分の無効確認及び取消しの訴えの利益を有する。

4  原告らは昭和三六年一〇月三〇日運輸大臣に対し本件免許処分の取消しを求める旨の訴願をしたが、すでに三箇月以上を経過したにもかかわらず、運輸大臣は右訴願につき何ら裁決をしない。

以上の理由により原告らは一次的に本件免許処分の無効確認を、ついで予備的に本件免許処分の取消しを求める。

二、本件拒否処分の無効確認・取消請求について

1  原告らは、道路運送法施行規則六三条一項による被告の昭和三六年一月七日付公示「東京都区内における一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力の増強について」にもとづいて昭和三六年二月一一日に被告に対して道路運送法三条二項三号による東京都区内一般乗用旅各自動車運送事業の免許の申請をした。被告は右免許につき運輸大臣から権限の委任を受けた行政庁として原告ワカバ交通株式会社に対して同年八月三一日付六一東陸自旅二第五四八二号指令書をもつて、原告エス交通株式会社に対して同日付六一東陸自旅二第五五三〇号指令書をもつて、それぞれ右免許申請の却下すなわち本件拒否処分をし、東京都陸運事務所長は、原告ワカバ交通株式会社に対して同年九月四日付六一都陸輪第五三五〇号通告書をもつて右却下の理由として道路運送法六条一項三号及び五号に定める免許基準に適合しなかつた旨を明らかにするとともに右指令書を送付し、原告エス交通株式会社に対して同日付同号通告書をもつて右却下の理由として同法六条一項四号及び五号に定める免許基準に適合しなかつた旨を明らかにするとともに右指令書を送付し、その頃右指令書及び通告書はそれぞれ原告らに到達した。

2  本件拒否処分はいずれも違法である。

(一) 前記処分理由通告書によれば、原告らの事業は、いずれも「当該事業の開始が公益上必要でなく、且つ適切なものでない」というが、被告はあえて免許の対象たりえない多数の未成立会社の発起人代表に対して法律に背反してまで免許を与えるほど一般乗用旅客自動車運送事業の輸送力の増強の切実に必要なことを前記公示をもつて自認しているのみならず、昭和三六年一月七日付の前記公示による免許台数三五〇〇両をもつてなお不足とし、さらに同年八月二一日付公示「東京都区内における一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力の追加増強について」をもつて免許台数二〇〇〇両を追加しているのであるから、右の却下の理由自体矛盾に満ちたものでとうてい法の容認しえざるところであり、また原告ワカバ交通株式会社についてはさらに「当該事業の遂行上適切な計画を有しない」との処分理由をも付しているが、同原告は当時増資して資本金三五〇〇万円の資本を現実に有し、かつ道路運送法及び付属法令の要求する事業遂行上の適切な計画を具体的に有し、いささかも非議せられるべきものではなく、かえつて別紙目録記載の実在せざる会社でさえその適格ありとする被告が逆に原告らのみにつきこの適格なしとするのは明らかに実験則に反するし、原告エス交通株式会社についてはさらに「当該事業を自ら適確に遂行するに足る能力を有しない」との処分理由をも付しているが、同原告の取締役はいずれもその事業を適確に遂行するに足る能力を十二分に有する者で構成され、かつ同原告は当時増資して資本金三〇〇〇万円を有し、名実共に適確に事業を遂行するに何ら不足なき能力を有するにもかかわらず、これを否とした被告の断定は全く独自の偏見で公正を欠き著しく実験則に反する。

以上の却下理由についての被告の判断はいずれも違法でその瑕疵は重大かつ明白なものであるから、本件拒否処分はいずれも無効というべく、すくなくとも取消しを免れないものである。

(二) 一般乗用旅客自動車運送事業の免許について、道路運送法上免許の要件としては同法六条にきわめて抽象的な規定があり、手続としては同法一二二条の二に聴聞手続を規定するだけである。しかし、このことは行政庁に対し要件事実存否の判定につき自由裁量を認めた趣旨と解すべきでなく、営業免許の性質及び多数の申請者から特定の適格者を選定する手続である点を考えると、行政庁は、免許の要件事実の存否の判定について、不公正な、事実の認定につき行政庁の独断を疑うことがもつともと認められような手続を選ぶ裁量の自由は有しないものである。そして公正な事実の認定につき独断を疑われることのない手続というためには、法の趣旨を具体化した具体的な審査基準を確立したうえ、その内容を申請人に告知し、基準該当事実の存否につきその主張と証拠を提出する機会を与え、或いは事業計画については補正をなし得る機会を与えるとともに、これを一般的に公表することによつて手続の公明を担保するものでなければならないところ、被告は、本件において審査開始前にその審査基準を確立しておらず、また原告らはいかなる基準によつて判定されたか皆目わからず、したがつて要件事実に対する主張と証拠の提出、特に事業計画に対する補正の機会も与えられなかつたまま却下されてしまつたのである。ところで具体的審査基準というためには、たとえば法六条一項四号「自ら適確に遂行するに足る能力」の基準としては、会社の種類、資本の額、資本負債比率、固定比率その他会社の能力を判定すべき一般的基準を道路運送事業の目的に徴して適切に修正した基準を設定しなければならないのである。次に法六条一項三号の「適切な計画」とくに本件の争点である車庫建築計画については、車庫の様式、構造、面積と車両数との比率、或いは立地条件として住居地域内の車庫は予め所轄庁の許可なき限りは絶対に認めないものかどうか等具体的基準を設定しておくべきである。もつとも道路車両法五六条による自動車整備基準(昭二八・八・一〇運輸省令)三条には車庫につき技術上の基準が示されているが、前記免許基準の判定対象たる車庫は単純なる技術上の点のみならず、高度の事業遂行上の観点からみて適切なものでなければならないから別箇の基準が必要である。たとえば、「都市計画法上及び建築基準法関係法令上車庫の建設が支障ある計画を提出したものについては原則として却下する。ただし、聴問の日に車庫の建設が支障がない旨の証拠書類を提出したものについてはその理由だけで却下しない。」という審査基準なるものについてみるに、被告が当該事業計画の車庫建設に関し、あらかじめ右の審査基準を設定したことはなく、本訴において急遽創作したものでしかない。かりに右審査基準の定立が当初からあつたとしても、右ただし書部分はきわめて不明確なもので到底基準たり得ない。すなわち証拠書類の提出を聴聞の日までと限定しているが、聴聞の日は各申請人毎に指定され、早いのと晩いのとでは四・五月の間隔があつて、後の者ほど十分の準備ができるという不公平を生ずる底の基準である。また「支障ない旨の証拠書類」というのも明確を欠くものである。これは建築確認書又は建築主事の証明書等特定すべきである。このことは本訴において被告の提出した書証によつても明らかなとおり、証明者が都知事、区長、建築主事等いろいろのものや、様式の種々雑多のものがあつて公正さが疑われるような基準でしかありえない。事実被告は車庫計画につきなんら具体的審査基準なくして審査を行ない、後記のとおり、或る者には便宜な車庫を認め、或る者に対しては計画の変更を認めるなど独断に基き不公平な判定をしていたのであるから、けつきよく原告らは右基準に適合せしめる補正の機会を与えられないまま却下されてしまつた。したがつて本件拒否処分は不公正な手続によりなされた違法の処分というべきである。

(三) 被告は昭和三六年一月七日付の前記公示において、「本措置に伴う申請書は昭和三六年二月一一日(土曜日)午後零時三〇分迄に東京陸運事務所において受理されるよう提出すること。既に受理され又は今後受理される申請書の提出についても同様とする。」と定め、ついで同年八月二一日付前記公示の2の(3)について、「新規免許の申請者に対しては一〇〇〇両程度について免許を行なう。この場合においては、前回の公示第5項により受理された申請に対して行なうものとする。」旨定めた。すなわちこれらの増強措置によれば新規免許申請は昭和三六年二月一一日午後零時三〇分迄に東京陸運事務所に申請書が受理されたものだけが免許の審査の対象たり得るとともにその申請書によつて具体的に特定された内容の申請そのもののみが審査の目的となることが明らかであり、右日時以後における申請の内容の変更を許さずとするものである。このことは右第二回の公示の3において「本追加増強措置に伴う既存事業者の事業計画変更(増車)認可の申請書は昭和三六年九月三〇日午後零時三〇分までに東京陸運事務所において受理されるよう提出すること。追加申請書の提出についても同様とする。」旨定めたるに対比して疑問の余地がない。かくの如く新規免許の申請については申請書提出時限後の申請内容の変更(既存業者の場合これを認め追加申請と称している。)を認めないと被告が公示した以上、被告はこの公示内容に束縛され、これに牴触する審査をなすことができない。けだしかかる公示により被告は自らなす新規免許の審査は申請書提出時限迄の申請内容のみを審査する旨の法規又はこれに準ずる準繩を定めたものというべきだからである。されば法一二二条の二による聴聞のごとく申請時限後における申請内容の変更、ひいてはその変更後の内容による事項を対象としてこれを審査することは明らかに法規違反であり、かつ著しい本公正であつてこれに基づく免許は当然無効であり取消しをまつて効力を否定さるべき行政処分ではない。しかして実際に聴聞なるものは一時に数百社も聴聞できないから、その最初のものと最後のものとではその間五、六月のちがいがある。右新規免許申請期限後における申請内容の変更を認めるという違法をするならば、後に聴聞を受ける者ほど申請内容の整備ができることになり不公平な取扱いとなるのである。

原告らは右申請書提出期限までに提出した申請内容のみにつき判定され、免許の可否が決定するものと固く信じ、爾後の追加又は変更の申請はしなかつた。ところが被告は一部の者に対して補正の名のもとに変更申請を認める不公正な取扱いをした。たとえば、別紙目録記載の訴外シルバータクシー株式会社の発起人代表に対する免許について、当初の計画で有蓋車庫の大きさ八二・五平方メートル、車両数三〇両であつたのを聴聞の際それぞれ五〇平方メートルの有蓋車庫、二〇車両(原告らの申請も二〇車両である。)に補正することを認めたが、車庫の収容能力、車両数はいずれも事業計画上の法定事項となつているのであるから、前記のごとき縮小は事業計画の変更となり、ひいては免許申請の変更であることは明白である。期限後の追加、変更申請を認めないと公示した以上、補正は表示、計数等の明白なる誤謬に限るべきであつて、申請の内容に係わるべきではない。もし右のような免許申請の変更が許されること、申請車両数二〇に必要な有蓋車庫の床面積が五〇平方メートルでも差支えないことなどが知らされていたならば、原告らも被告のいわゆる補正により免許をうけるにいたつた一部の者にならつて、車庫の様式を屋外車庫に変えることも、また車庫の規模を縮小することもできて容易に免許をうることができたはずである。すなわち原告らは被告のいわゆ補正の機会を与えられなかつたという不公正な手続により拒否処分をうけたものである。よつて本件拒否処分は違法であり取り消されるべきである。

(四) 原告ワカバ交通株式会社は聴聞当日に杉並区建築主事の車庫一五坪の建築につき土地区画整理法、建築基準法及び同法関係法令上支障がない旨の証明書及び建築確認書控を持参した。右確認書は車庫一四・九八坪(四九・五二平方メートル)の建築面積を有するものを申請しているが、有蓋部分は計画どおり一二五・六平方メートルのものである。また原告エス交通株式会社は聴聞当日東京都知事の証明書(免許をえた訴外一番交通株式会社が提出したのと同種のもの。すなわち、申請敷地が都市計画街路(計画決定)の境域外にあること及び申請車庫建築坪数では建築基準法四九条一項本文に牴触することを証明したもの)及び建築確認書控を提出した。右確認書もまた車庫の建築面積一四・五六坪(四八・一五平方メートル)であるが有蓋部分は計画どおりのものである。ところで、原告らの提出した事業計画における車庫予定地が建築基準法四九条一項本文及び東京都風致地区規程三条一項本文の各規定による制限地域にありながら、有蓋車庫一二五・六平方メートルを建築する計画であるが、右各条項の但書規定において特別の場合管轄庁の許可を得れば、右計画車庫の建築が可能なのであるから、免許後事業開始までに許可をとれば何ら差支えない。ことに右車庫予定地は原告ワカバ交通株式会社一三九〇平方メートル、原告エス交通株式会社七三三平方メートルの広さで、原告らが東京都区内における一般乗用旅客自動車運送事業の適正なる供給輸送力という点を考慮し、既免許業者の比較的少ない地すなわち供給輸送力の稀薄地を選定したから、前記但書規定の許可すべき場合に該当するといつてよいものである。しかも右車庫建築計画はそれ自体適法の対象たりうるものではなく、計画として適切であるかどうかの問題であるから、違法の問題は許可なくして実際建築に着手したときはじめて生ずることがらである。本件拒否処分は、被告において前記但書規定をことさらに無視したか、またはこの規定にもとづく許可が絶対にとれないものと予断した結果が、いずれにせよ理由のないものである。したがつて、原告らの右車庫建築計画が要許可事項であることはその事業計画に違法性を含む瑕疵ではないし、かりに瑕疵であるとしても本件免許申請を却下するほどの致命的事由たりえない。このことは、免許につき原告らと競争関係にある前記シルバータクシーのほか同じ関係にある別紙目録記載の訴外ムサシ交通、蓮沼交通、サンキユー自動車、一番交通、高円寺交通、関東交通興業、杉並交通、杉並自動車、永楽交通の各申請者がいずれも原告らと同様建築基準法上の住居地域内の制限をうける車庫建築が事業計画で予定されていたにもかかわらず、免許を与えられた事実に徴して明白である。とりわけ右のうち高円寺交通、関東交通興業、杉並交通、杉並自動車及び永楽交通の五者は車庫建設についての確認ないし許可に関する証拠書類を提出しなかつたにもかかわらず、被告は右五社には免許を与えた。そして現在右五社はいずれも五〇平方メートルを超える有蓋車庫を確認又は許可なく建築し、使用しているありさまである。しかるに被告は原告らの車庫建設計画が建築基準法四九条一項本文の規定に反するゆえをもつて本件拒否処分をするにいたつたのであるが、かかる拒否処分は結局原告らのみを別異に扱つた不公平なものであつて、とうてい取消しを免れない違法の処分というべきである。

3  原告らは昭和三六年一〇月三〇日に運輸大臣に対し本件拒否処分の取消しを求めて訴願を提起したが、運輸大臣は右訴願提起後三箇月を経過してもなおこれについてなんら裁決をしない。

以上の理由により、原告らは一次的に本件拒否処分の無効確認を、予備的に本件拒否処分の取消しを求める。

第三被告の申立て

一  本案前の申立て

1  被告の別紙目録記載の各号の者に対する昭和三六年八月三一日付一般乗用旅客自動車運送事業免許処分の無効確認請求及び同免許処分の取消請求に係る訴えを却下する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

二  本案についての申立て

1  原告らの各請求を棄却する。

2  訴訟費用は原告らの負担とする。

第四被告の主張

一  本案前の抗弁

原告らは本件訴えにおいて原告らに対する本件拒否処分の無効確認・取消しを求めるとともに、別紙目録記載の各設立中の会社の発起人代表らに対する本件免許処分の無効確認・取消しをも求めているが、原告らは本件免許処分の無効確認・取消しを求める法律上の利益を有しない。原告らの主張は、要するに訴外発起人代表らに対する本件免許処分と原告らに対する本件拒否処分とは同時に行なわれたものであるが、これら免許申請の審査に当つて被告が事前に新規免許の申請者に対する免許台数の枠を一八〇〇両と定め、この枠をめぐつて多数の者が申請したところ、原告らの申請は却下され、右一八〇〇両は第三者に対する免許によつてすべて満たされてしまつた以上、原告らに対する本件拒否処分の無効確認・取消し請求が認容されても第三者に対する本件免許処分の取消しを得ないかぎり、原告らが右認容判決にもとづいて免許を受けることはできない関係にあるから、第三者に対する本件免許処分の無効確認・取消しを訴求する法律上の利益があるというのである。

なるほど、被告は自動車運送協議会の答申にもとづき東京都区内において昭和三六年中に五五〇〇両程度のハイヤー・タクシーの増車を行なうこととし、このうち三七〇〇両程度を既存業者の増車にあて、新規免許の申請者に対しては残余の一八〇〇両程度を免許するとの方針をたててこれを公示し、これにもとづいて免許したものである。しかしながら、右の増車台数五五〇〇両は法律の規定自体から生じたものではなく、法律によつて委された被告の裁量により行政の方針として定められたにすぎないものであり、また公示自体から明らかなとおり右は増車の台数を厳格に五五〇〇両(三七〇〇両と一八〇〇両)に限定する趣旨のものではなく、一応の基準を示したにすぎないものであり、その性質上必要に応じてある程度の増減は可能なのである。してみれば、法律上厳格な枠が存する結果となる鉱業権設定の許可や事実上周波数に限定があるため枠が存する結果となるラジオ、テレビ放送の免許等の場合と異なり、本件の場合は第三者に対する免許の無効確認・取消しを得なくとも原告らは自己に対する本件拒否処分の無効確認・取消しを求めれば足りるのであつて、第三者である訴外発起人代表らに対する本件免許処分の無効確認・取消しを訴求する法律上の利益はない。のみならず、被告は昭和三八年一〇月二二日以降は従来の方針を改め、年間における増車台数の基準を定めることなくまた免許申請も随時受理して必要に応じて免許することとして現在に至つている。そうすると、かりに本件拒否処分の無効確認・取消訴訟につき原告らが勝訴判決をえた場合において、被告は、その判決の拘束力を受けることはさることながら、再度原告らの免許申請について審査し、許否を決すべきこととなるが、これについては再審査時における状況、すなわち増車台数に関する基準は定められておらず、必要に応じて免許すべき状況のもとにおいて審査することとなるのであり、この点からしても、原告らは第三者に対する本件免許処分の無効確認・取消しを求めるにつき法律上の利益を有しないのである。

そこで、訴外発起人代表らに対する昭和三六年八月三一日付一般乗用旅客自動車運送事業免許処分の無効確認及び取消請求に係る訴えは不適法としてこれを却下すべきである。

二  本件免許処分の無効確認・取消請求について

1  請求原因1は認める。同2以下のうち、原告主張日付の各公示に係る新規免許の申請者に対する免許台数、申請内訳及び割当免許車両数が原告主張のとおりであること、原告が本件免許処分について原告主張の日にその主張のごとき訴願を提起し、三箇月を経過してなおその裁決がないことはいずれも認めるがその余の点は争う。

(一) 本件免許申請は設立中の会社がその代表機関たる発起人を通じてなし、本件免許処分は右発起人代表を通じて設立中の会社に与えられたものである。このことはあたかも成立後の会社がその代表機関を通じて申請をし、免許が右代表機関を通じて会社に与えられる場合と同様である。したがつて代表機関たる発起人が設立中の会社のため機関としての自己の名において免許申請をし、また免許庁の方も設立中の会社のため代表機関たる発起人において免許行為をしたとしても、あえて異とするに足りない。たゞ成立後の会社にあつては代表機関のまたはこれに対する行為の効果は実質的にも形式的にも即時会社に帰属するのに対し、設立中の会社の場合においては、通説判例によれば発起人の代表権限に制限があつて、しかもその制限の範囲内の行為の効果が会社に形式的に帰属するのは会社成立と同時であつて、それまでは設立中の会社に形式的に帰属しないという点に両者の相違がみられるだけである。この点について、原告らは異見をもつているようであるが、会社の成立前においてそれと同一性を有するその前身ともいうべき「設立中の会社」が社会的に実在し、法律学的にも「権利能力なき社団」の一種とされており、それのまたはそれに対する行為が権限ある機関を通じてなされ、その効果は権利能力の欠如という形式的障害があるため形式的には社団に属せず、機関個人に属することとなるけれども、実質的には社団自体に属するとすること今日の通説的見解であるから、後に述べるごとく機関たる発起人が営業免許申請をなしたり免許を受くる権限を有する以上、発起人の申請及びこれに対する免許をそれぞれ実質的には設立中の会社の申請及びこれに対する免許と解することになんの障害もないといわなければならない。要するに右申請及び免許の効果は、設立中の会社である間は形式的には発起人に帰属するけれども、実質的には設立中の会社自体に帰属するものであり、会社成立の時至ればそれと同時に効果の実質的帰属はもとより形式的帰属も何らの手続を要せず当然成立会社に帰するのである。

(二) 会社の設立とは会社の実体を構成してゆく手続であつて、実体が完成したときに設立が終了する。会社の実体はいうまでもなく企業そのものである。商法は、定款の作成にはじまつた設立手続がその後所定の手続を経て設立登記に至つて終了し、そのとき会社法人が成立するとしている。設立登記のなされる時期ともなれば、社員、会社機関、資本ともにそなわつて企業組織が整備され、即時からでも企業活動の開始が可能な状態に達したと見られるからである。確かにまた一般の場合には設立登記と同時に原始定款所定の目的にかかる企業活動を開始することが法律に許容されている。しかし当該企業活動が営業免許にかからしめられているときは、事態はおのずから異つてくる。免許が与えられるまでは当該企業活動が法によつて禁止され、法的不能な状態におかれているからである。したがつて、たとえ社員、会社機関、資本ともにそなわつていても、企業活動を開始しえぬものなのである。そのような会社実体はもはや法人的側面からみても社会的活動をなすをえないという点で、すでに述べたごとく法人の名に値しないばかりでなく、その実体たる企業という側面からみても、企業の観念ないし実体が企業組織と企業活動の総合統一から成り立つているものである以上、いかに企業組織のみがそなわつていても、企業活動が法的に欠如しているようでは会社実体に欠けるところがあるといわなければならない。このような場合には企業活動の禁止状態という会社実体の欠けている部分が補填されるまでは会社実体の完成という意味での設立は終了していないとみられるから、設立中の会社としては、すべからく設立登記までに自己の機関を通じて営業免許を得るように努めねばならないということになる。

ところで、なるほど設立登記までに営業免許を受くべしとの明法のない以上、営業免許を得ずとも一応適法に設立登記を経由して会社法人を成立せしむるを得るであろう。しかし、前叙のごとき法人の本質ならびに企業の本質に想をいたすとき、免許を得ずに設立登記をなすというようなことは、法人設立及び企業設立に関する法の趣旨とするところではなかろう。会社設立に関する商法の現行規定は、設立登記と同時に企業活動の開始が法的に可能な一般の場合を想定して作られたものであつて、それはあくまでも設立登記と同時に企業活動の開始の可能たることを予定しているものである。美濃部達吉博士も、営業免許は会社成立後受くべきか成立前に受くべきかについてこのようにいわれる。「営業の免許は既存の人格者の活動に関するもので、人格者の存在を前提とするという議論も正当ではない。営業は固より法人として成立した後に始めて為し得る所であるが、政府の免許を必要とする営業を目的とする法人に在りては、其の免許を与えられるや否やの不明の間は法人として目的の主体となり得るや否やが不確定であるから、其の営業免許は法人の成立前に与えられるのを当然とする。此の場合に於ける営業免許は将来成立すべき法人に対して予め其の営業を許可する行為であることは言う迄も無い。」(同博士著 類集評論「行政法判例」七一頁)。また「特許企業者ガ会社ナル場合ニ於テハ、特許ハ会社ノ設立前其発起人ニ対シテ与エラレル。蓋シ会社ガ其事業ヲ営ム為ニ設立セラルル場合ニ於テハ若シ設立ノ後ニ至リ特許ヲ受クルヲ得ザルトキハ、会社ハ設立ノ目的ヲ失ヒ解散ノ外ナキヲ以テ、設立前ニ先ヅ特許ヲ与エテ然ル後ニ株式募集ニ着手スルコトヲ得ベカラシムナリ。」(同博士著「行政法撮要」下巻二六七頁)と。

さらに、本件のごとき自動車運送事業に関する営業免許は会社成立前に受くべしとの所説は、社会経済上の実際的要請からも基礎づけられる。すなわち道路運送法六条一項に掲げるその免許基準は抽象的かつ一般的であつて、申請者において免許されるかどうかを予測することは非常に困難であるばかりでなく、免許すべき車両数が限られているから、他の競願事案との比較において却下される場合も生ずるのであつて、このような建前のもとにあつては、自己の申請がはたして容れられるものかどうかは全く予測のつかないことである。免許が得られるとの予測のつくものならば、会社成立後の免許取得ということも当然期待でき、実際にも免許を取得できて会社成立の意義を全うしえようけれども、このように免許が得られるかどうか予測のつかない建前のもとにおいては、会社成立後の免許取得は当然には期待できず、会社は成立したけれども免許は得られないということに往々にしてなりかねない。かくては並々ならぬ手数と費用をかけて会社を設立させたことの意義が失われるばかりか、そのまま解散することにでもなれば、設立に要した経済的エネルギーは徒らに空費されたことになる。それだけではない。解散までのあるいは免許取得に至るまでの企業活動停止期間中に生ずる会社経費についても無視できないものがある。このような次第であるから、設立中の段階において免許を取得することにより企業活動の法的可能性を確かめた上で会社を設立することが合理的な方法として社会経済上からも要求されるのである。

(三) 会社設立に必要な行為をもつて、発起人の権限とするのが通説判例である。出資者を確定し、出資を履行せしめ、かつ機関を選任するなどもつて設立登記をなすに必要な諸条件を満たす行為が設立に必要な行為として発起人の権限内にあることは異論ない。またいわゆる開業準備行為のうち定款に記載した上で厳重な検査を通ることを条件になされるいわゆる財産引受もまた発起人の権限に属すること疑いない。それでは定款所定の目的に係る営業の免許の申請をなすこと及び受くることについてはどうであろうか。原告らは、営業免許申請のごときは開業準備行為であつて設立行為ではないからということを念頭において発起人の権限に属するものではないとするようであるが、財産引受のごく開業準備行為必ずしも発起人の権限とならぬものではないし、会社の設立に必要な行為はそれ自体同時に開業準備行為でもある。免許申請は、免許という開業を可能ならしめる要件を具備するための前提行為として一の開業準備行為であるといえないこともない。しかし、それだからといつて会社設立に必要な行為ではないとはいえないのである。さきに述べたごとく、会社の設立とは会社の企業的組織を充実させるとともに会社の企業活動を法的に可能ならしめる状態におく手続と解すべきところ、営業免許は、免許を要する企業にとつては、企業活動を法的に可能ならしめるために必要不可欠のものであるから、その前提たる申請行為もそのために必要不可欠のものであつて、まさに会社設立に必要な行為と観念せざるをえないものである。したがつて発起人は設立中の会社のために営業免許を申請し又は受ける権限を有するものといわなければならない。

(四) 原告らは、発起人の申請及びこれに対する免許は商法上違法となるばかりでなく、ひいては道路運送法にてらしても違法であると主張する。そこで道路運送法をみるに、自動車運送事業の免許をうけようとする者は同法五条によつて運輸大臣に申請書を提出しなければならないし、又自動車運送事業を経営しようとする者は同法四条によつて運輸大臣の免許をうけなければならないことはいうまでもないけれども、右の「免許をうけようとする者」又は「経営しようとする者」に自然人や法人が含まれることは勿論であるが、原告主張のようにこれから設立中の会社を排除しなければならないとすることは理由がない。上来述べきたつたごとく、設立中の会社が会社の前身として免許申請をなしたりする又免許をうけたりする法律上の必要と適格を具えているとみられる以上、右の「者」のうちに設立中の会社が含まれると解すべきだからである(設立中の会社も「……事業を経営しようとする者」にほかならない)。道路運送法施行規則はこの法の趣旨をうけて四条一項本文において「法第五条の規定により、自動車運送事業の免許を申請しようとする者は、左に掲げる事項を記載した自動車運送事業免許申請書を提出するものとする。」と規定し、二項では「前項の申請書には左に掲げる書類及び図面を添付するものとする。」として一二号において「法人を設立しようとする者にあつては、左に掲げる書類」として、定款又は寄付行為謄本、発起人・社員又は設立者の名簿及び履歴書、設立しようとする法人が株式会社又は有限会社であるときは株式の引受又は募集の計画書をあげている。したがつて、設立中の会社が同法五条によつて免許申請をしたことになんらの瑕疵も存しない。

(五) 被告は、本件免許処分に係る各申請を適法に受理し、調査として申請書の形式的審査(道路運送法五条、同法施行規則四条に規定する記載事項の具備について)、聴聞(同法一二二条の二)及び現地調査の各手続を了え、さらに同法一二三条、同法施行令四条の規定に従い、都知事の意見を徴したうえ、審査会における許否の決定にもとづいて本件免許処分をし、その処分結果を各申請人に通知したが、その方式・手続・内容ともになんら違法のかどは存しない。

三  本件拒否処分の無効確認・取消請求について

1  請求原因1は認める。同2以下のうち、原告主張の免許台数につきその主張どおりの日付の各公示があり、かつその公示には原告が主張するような事項が記載されていたこと、原告らが本件拒否処分について原告主張の日に主張のごとき訴願を提起したが、三箇月を経過してなおその裁決がないことはいずれも認めるが、その余の点は争う。

2  本件拒否処分は適法である。

(一) 本件免許の許否の処分にあつての審査の手続は、申請書の受付、調査手続(申請書の形式的審査、事案の公示、聴聞、現地調査)、許否の決定、処分の通知の各段階を順次経由して行なわれるが、本件申請を含む昭和三六年度の東京都区内におけるタクシーの新規免許の申請を受付けるに当つて、昭和三六年一月七日に東京陸運局長は「東京都区内における一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力の増強について」と題する公示を行ない(乙第一号証)、この中において「本措置に伴なう申請に対しては、道路運送法六条一項に規定する免許基準に適合するかどうかについては厳正公平な審査を行なうことはもとよりであるが、この場合、特に次の事項を重視するものとする。」として「新規免許の申請(一人一車制個人タクシーを除く)について」

イ 事業の適正な運営を期するため発起人もしくは役員またはこれに準ずる者の結束力が強固であり、かつ事業遂行の主体性及び自主性が明確であること。

ロ 事業の健全な経営を確保するため資金計画が健全でありかつ資金調達の見透しが確実であること。

ハ 車両の管理及び道路交通の円滑化に資するため、車庫の立地及び収容能力が適切なこと。

ニ 労務管理の適切を確保するため運転者の休憩、睡眠または仮眠の施設が整備されていること。

ホ 事業計画の遂行及び労務管理の適正を図るため運転者の確保の見透しが確実であること。

ヘ 供給輸送力の比較的稀薄と認められる地域または国鉄及び私鉄の駅における輸送力の増強に資するよう適正な計画であること。

といつた諸項目をかかげ、右項目を重視して審査が行なわれることを申請者を含む一般人に対して明確にした。のみならず、聴聞に先立つて右審査項目に関連する書類を聴聞当日持参するよう申請者に対して個個的に通知し、持参がない場合は挙証がないものとして処理される場合があるとの注意を喚起した(乙第二号証の一、二)。その書類は次のとおりである。

イ 各発起人の居住証明書

ロ 各発起人の在職証明書

ハ 既存法人の申請人は最近の試算表及び決算書

ニ 営業所、車庫等の建物または土地を所有するときは登記簿謄本、借り入れまたは譲り受けの場合は契約書(印鑑証明書添付)及び所有者の登記簿謄本

ホ 都市計画法上及び建築基準法関係法令により車庫の建設が支障ない証拠書類

ヘ 各出資者の裏付けとなる預貯金通帳、預金証書、有価証券及び納税証明書

ト 申請人においてその他申請内容及び証明のため必要と考えられる挙証書類

以上の如く被告庁としては具体的な審査上重視する項目を設け、その内容を利害関係人に知らせ、この点につき主張と証拠を提出する機会を与え、もつて事実認定の独断をさけることに意を用いて本件免許申請の審査を行なつた。

原告らは、一般乗用旅客自動車運送事業の免許の許否の審査に当つては、審査開始前に具体的審査基準を設け、その内容を申請人に告知したうえで主張立証をなす機会を与え、事業計画については補正をなし得る機会を与えるとともに、これを公表すべきであるのに原告らに対する審査手続の全過程を通じてそのような方法がとられていないから、本件拒否処分は違法であると主張している。しかしながら、被告は本件拒否処分を行なうに先立ち審査開始前に審査基準を確立していたものであるが、右基準の内容を申請人に告知する必要はない。原告らが審査基準の内容を告知しなければならないとするのは申請人に対して主張と立証を促すことが必要であるとするためと考えられるが、後述のとおり、自動車運送事業の免許は行政庁が公益判断を行なつてその許否を決定するものであり、聴聞も公益判断の資料を得るためのものであつてみれば一々申請人に対して基準内容を告知したうえで主張立証を促す必要性は存しない。即ち、聴聞が申請人の利益のために行なわれる手続であれば、聴聞手続の瑕疵は申請人の利益を侵すものとして処分の内容如何を問わず、これを違法ならしめるといえようが、聴聞手続が行政庁の公益判断のための資料を得る一方法としてなされる場合にあつては、右手続の瑕疵は直ちに行政処分の瑕疵を招来するものではなく、当該処分が違法とせられるためには、当該処分の内容自体に瑕疵あることを要するものと解すべきである。然らば本件免許申請の許否を決定するにあたつて行なわれる聴聞は果して申請人の利益のために行なわれる手続と解すべきものであろうか。自動車運送事業は警察許可事業ではなく、公益的事業としてその免許はいわゆる特許に属するものであるから、その許否を決定するために行なわれる聴聞は行政庁の公益判断のための資料を蒐集する一方法に止るものと解すべきである。およそ警察許可事業というときは、この種事業を自由に放任して経営させると公共の秩序に障害を与えるおそれがあるために、一般的にはその自由なる経営を禁止するが、右規制も警察障害を予防排除するという見地から必要最少限度に止まり、料金を認可し、事業計画を定めさせるなど積極的に事業の経営内容に立ち入ることなく、許可を受けるべき者の数に制限もない等その事業の経営に特別の保護も加えず、また事業の廃止による役務提供の杜絶に対しても国は何らの関心をもつものではないのに対し、自動車運送事業にあつては、これが免許を受けなければ営むことができない(法四条)点においては警察許可の場合と同様であるが、この免許は事業経営能力(運転技術や資力等)があるからといつて無制限に与えられるものではなく、自動車運送事業が開始されることによつて当該事業区域に係る供給輸送力が輸送需要量に対して不均衡とならない範囲においてのみ与えられるのであつて(法六条一項二号)、かくて免許を受けた者は指定された期日または期間内に運輸を開始する義務を負い(法七条)、事業の全部または一部を休止または廃止しようとする場合は許可を受けることとして、みだりに事業を休止または廃止することを禁ぜられる(法四一条、四二条)とともに、正当なる事由のないかぎり輸送の引受を拒絶することを得ず(法一五条)、また運送の引受に関する約款並びに運賃については監督官庁の認可を要する(法一二条、八条)等事業経営のあらゆる面にわたつて規制を受けているものであつて、前記警察許可事業の場合と甚だ異なるのである。このように道路運送法が自動車運送事業の経営について種々規制するのも、自動車運送の事業が公益的事業であるがためであつて、この事業を行なう者には大衆の利益のために適切なる運送約款のもとに妥当なる運賃で役務の提供を継続すべき義務を課し、他方かかる事業が無制限に行なわれるときは過当な競争を引きおこし、事業自体が破綻に陥るおそれもあるがために、輸送需要量に応じた数しか免許しないこととして事業の安定性を保護していることを知り得るのである。右述の如く自動車運送事業が公益的事業としてその免許はいわゆる特許にあたるものであるならば、右免許の許否を決定するための聴聞は、行政庁の公益判断のための資料を得るための手続であるから、行政庁の必要と思料する程度に申請人等の陳述を促しまたその立証を促せば足るものであつて、たとえその手続に十分ならざるものと非難を受ける点があつても、それが処分自体を違法ならしめる瑕疵とはなりえないのである。

つぎに、自動車運送事業の免許の許否を決定するための聴聞が公正に行なわれなければならないことは当然として、聴聞が公正なものであるといいうるためには、行政庁が予め審査基準を設けていたということの外に聴聞担当官において申請人の主張しない事実についてまで種々臆測して質問し、また証拠の有無を確かめなければならないとする義務はない。およそ聴聞手続が設けられた目的に二通りあることは前述した。本来、自由になしうる行為が警察目的のために禁止されている場合に、右禁止を解除するいわゆる警察許可の場合にその許否を決定するために行なわれる聴聞は、申請人の利益のために行なわれる手続であるから、右聴聞においては禁止解除事由の存在しないことについては―拒否処分をするためには―聴聞担当官において逐一申請人に釈明し、これについての意見陳述の機会を与えるとともに、その証拠を提出する機会を与えることを要するといえようが、本来自由になしえない行為を公益の見地から特定の者にだけその行為をなし得る権利を付与するところの公益的事業の特許の許否を決定するために行なわれる聴聞は行政庁の便宜のために行なわれるものであるから、特許事由の存在することについて聴聞担当官が逐一申請人に釈明し、これについての意見陳述の機会を与え、その証拠の提出を促すべき責務を有するものではない。聴聞担当官が必要と考えた事項について質問し、申請人の意見を聞き、必要と考えた事項につき申請人に証拠提出の機会を与えれば足りる。そして、たとえ右聴聞担当官の釈明が不十分であつたとしても、その手続は不当であるに止まつて、不公正(違法)をもつて目せらるべき性質のものではない。また自動車運送事業が特許事業に属するかそれとも警察許可事業に属するかの点はしばらくおくとして、自動車運送事業の免許申請の許否を決定するために行なわれる聴聞は、もともと補充的なものである。行政庁(陸運局長)は申請人から提出された申請書にもとづいて書面審査で許否を決定するのを原則として(法五条、施行規則四条参照)、聴聞を行なうかどうかは行政庁の裁量に任されている(法一二二条の二第一項)。したがつて行政庁としては聴聞の段階において如何なる事項を質問するかもその裁量にまかされているところであつて、審査基準のすべての事項にわたつて申請人に意見を述べる機会を与え、その立証を促さなければならぬものではない。行政庁としては既に申請人から提出された書類を審査した結果にもとづいて必要と思料した事項について聴聞すれば足りるのである。そして事業計画について補正の機会を与えるとともに、これを公表すべきことの必要性も、したがつて全く存しないというほかない。

(二) 被告行政庁は、本件免許申請の許否を決定する審査を行なうにあたつて、あらかじめ審査基準を定立したが、その一つに「都市計画法上及び建築基準法関係法令により車庫の建設が支障ある計画を提出したものについては、原則として却下する。ただし、聴聞の日に車庫の建設が支障ない旨の証拠書類を提出したものについては、その理由だけでは却下しない。」という審査基準があつた。この審査基準は、さきに公示をもつて、車庫の建築計画の適否が審査の対象になることを予告したことに由来するものであつて、被告は、本件聴聞に先立ちすべての申請人に聴聞当日持参すべき証拠書類の一つとして「都市計画法上及び建築基準法関係法令により車庫の建設が支障ない証拠書類」を指示し、書類の持参のない場合は、不利益な扱いを受けることを併せて通知した。したがつて挙証の機会である聴聞の日に指示されたとおり車庫の建設が支障ない証拠書類を持参したものと、指示されたにもかかわらず持参しなかつたものとを同一に評価することはそれ自体免許について競争関係にあることの性格上公平を欠くこととなるし、なお申請案件の処理が急がれている関係上事務の円滑化を計る必要もあり、しかも免許台数に限りがあるのに対して免許申請が相当多数ある場合であるから、証拠書類を聴聞日に提出したか否かを免許の許否に影響させることが却つて相当であることにかんがみ、被告は本件免許申請の審査においては聴聞の日に車庫の建設が支障ない旨の証拠書類の提出があつたもののみを採点の対象とした。

しかるに、原告らはいずれもその聴聞の日に車庫の建設が支障ない旨の証拠書類を提出しなかつた。しかもその申請に係る事業計画は、都市計画法上及び建築基準法関係法令により車庫の建設が支障あるものを内容とするものであつた。すなわち、原告ワカバ交通株式会社については、同原告の事業計画による車庫施設の予定地が建築基準法四八条にいう「準工業地域」になつており、かつ同地は都市計画法一〇条二項の「風致地区」としての指定もうけている。そのため東京都条例「東京都風致地区規程」三条二号の規定によつて当該地区は建築基準法四九条一項の「住居地域」と同様に建築制限を受けることと定められている。また原告エス交通株式会社についても同原告の事業計画による車庫の建設予定地は建築基準法四八条による住居地域の指定がなされ、同法四九条一項によつて建築制限がなされている。すなわち同項別表第二(い)によれば、床面積の合計が五〇平方米を超える自動車車庫は住居地域内に建築してはならない建築物として定められている。ところが原告らの事業計画によると、それぞれ一二五・六平方メートルの面積の有蓋車庫の建設が予定されていて、これは明らかに建築基準法の制限に触れる違法性を含むものであり、このような不法建築を容認することとなる免許を原告らに与えることは法秩序維持の観点から到底許されないものである。したがつて原告らの事業計画は当該事業の遂行上適切な計画を有するものではないと判断し、原告らの免許申請を道路運送法六条一項三号(原告エス交通株式会社に対する拒否処分の通知書において同項四号と記載したのは同項三号のあやまり)及び五号に適合しないものとして却下したものである。

(三) 原告らは、被告が自らなした公示を無視し、いわゆる補正の名のもとに一部の申請人にだけ期限後の変更申請を認めるという不公正な手続によつて原告らの申請を却下したと主張する。しかし右主張は理由がない。

そもそも審査の手続が流動的に行なわれるけれども、審査の対象は、一時の時点においてこれを固定する必要がある。このような審査対象の固定性の要請から、本件増車の公示すなわち昭和三六年一月七日付「東京都特別区内における一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力の増強について」と題する公示において、「本措置に伴う申請書は昭和三六年二月一一日午後零時三〇分までに東京都陸運事務所において受理されるよう提出すること、すでに受理された又は今後受理される申請書の追加申請書の提出についても同様とする。」との定めを設けるに至つた。しかしながら、右固定性の要請を絶対的なものと考えるのは正当ではない。けだし、それはあくまでも一定の短期間のうちに大量の申請を処理しようとする審査の便宜から由来する技術的な要請に他ならないからである。したがつて審査の進行に何らの支障を及ぼさないかぎり、申請人個々の合理的な意思を審査庁が尊重することは全く当を得たことというべきであるから、かかる見地から右固定性の要請をある程度柔軟かつ弾力的に考えることは何ら不当でないばかりでなく、むしろ望ましいことですらある。したがつて審査に支障を及ぼさない限度で申請人の意思を尊重して審査庁において申請内容の実質的補正を認めたからとて、何ら責められるべき筋合ではない。しかして「審査に支障を及ぼさない」という限定からその補正の限界を考えるならば、「申請内容の同一性」をもつてその限界となすべきであろう。すなわち補正前の申請内容と補正後の申請内容とを比べてみて本質的な違いが生じない場合にのみ、審査庁は申請者の補正意思の表示を容認して審査を行なうこととなるのである。もつとも補正の時期及び方法についても無制限であることは許されないのであつて、これにも固定性の要請からする限界のあることに留意しなければならないであろう。そこで審査庁としては、申請内容の釈明及び挙証のために開かれる聴聞の日をもつて補正許容の時期とし、当日提出される挙証資料に現われている限度で(勿論申請内容の同一性を害しない範囲内において)申請内容の実質的補正を許してきたのである。もつとも多数の案件を処理することとて、申請事案に対する聴聞を一せいに同日に行なうことが不可能なため聴聞日が区々に分れることから、事案ごとに不平等な取扱いになりはしないかとおそれる向があるかも知れないが、かかる懸念は全く無用のことである。すなわち審査庁としては、聴聞の前に、聴聞までに相当の期間をおいて個々の申請人に対し聴聞の通知を行なうが、その通知書において聴聞の日に必要な挙証書類を持参するよう注意書をなして挙証資料提出の機会均等を図つているのである。つぎに審査対象に対する審査基準の適用が何時行なわれるかというに、すでに明らかにされたように、それは聴聞の日がまさにその時期とされる。車庫の建設計画に関する審査基準についてみるに、当日申請人は車庫建築計画の実現に関する挙証資料を携えて聴聞官の面前に現われ、聴聞官に対し説明を行なうと同時に右挙証資料を呈示する。そこで申請人の建築計画の補正の意思が明らかにされるわけであるが、その場合右建築計画の補正が建築確認書とか建築基準法四九条一項但書による特定行政庁の許可書あるいは右処分書にかわるべき証明書等の呈示によりその場で証明された限度で補正意思を容認することとし、同時に右によつて実質的に補正された計画を審査の対象として審査基準により評価を行なうのである。しかし、建築計画が補正されたからといつて、ただそれだけのことで免許になるわけのものではなく、建築計画に対する審査上の評点もあくまで申請時の計画に対してなされ、計画が実質的に補正されたからといつて、補正後の計画が申請当初からあつた場合のような優位な評点がつけられるわけではない。要するに計画の補正を許す意義は、補正前の計画上の瑕疵のみを理由に却下されるべき事案であつても、その補正が聴聞の日に実質的に行われれば、他の申請事案との比較による審査が行なわれる余地が生ずることにある。

そこで原告の挙げる免許事例についてみるに、シルバータクシーの免許申請については、八二・五平方メートルの有蓋車庫を計画していたのであるが、同申請人においてすでに聴聞前右計画を縮減して五〇平方メートル限りの有蓋車庫を建築する内容の建築確認を受けていたことが聴聞のさいその確認書の提出によつて判明し、また車両数についても申請は三〇両であつたが、被告の免許基準車両数が二〇両になつていたので、その三分の一を削減して二〇両につき免許することとしたので、これに対応するところの車庫もその三分の二の有蓋車庫すなわち概ね五〇平方メートルで足りるから、右のような広さの有蓋車庫を建築するに違いないと認められたので、建築基準法上の違反惹起のおそれが全くないと判断して免許するにいたつたものであつて、原告らのいう如く申請後に補正を認めたものではない。もつとも車庫の収容能力については、有蓋車庫を縮少することが直に車庫の収容能力の縮少にはならない。シルバータクシーの場合、八二・五平方メートルの有蓋車庫のほかに無蓋車庫の計画があつたのであるから、少くなつた有蓋車庫部分が無蓋車庫に変るというだけであつて、収容能力においては何らの変更もきたさないのであり、事業計画の変更とはならない。またムサシ交通の車庫建築計画は有蓋コンクリート舗装一九六・三五平方メートルとなつていたが、聴聞にさいし、同申請人は、屋外車庫(すなわち有蓋車庫とされていた部分は、主柱をはじめ施設の全部が土地に定着することなく、取りはずし可能であるばかりか、蓋に当る部分は天幕式の織布であり、この織布は紐によつて折りだたみ等の操作が自在に行なわれ得るような仕組のもの)の建設が支障ない旨の証拠書類を被告に提出したところ、右折だたみ式有蓋車庫は、建築基準法にいう建築物の条件を欠くものであるが、有蓋車庫としての機能を果すことに支障はないと判断されたものである。その他の蓮沼交通外七会社(いずれも設立中の会社の発起人代表)は建築基準法四八条、四九条所定の住居地域内に車庫建設を計画しているが、いずれも聴聞の日に聴聞通知書記載の指示どおりに都市計画法上及び建築基準法関係法令により車庫の建設が支障ない旨の証拠書類を提出した。この点に関する原告らの主張は、他を攻撃することによつて自己の立場を正当化しようとするものであつて採るに足らない。なお原告らは右八社の現在の有蓋車庫の大きさをとかく問題としているようであるが、車庫建設についての免許許否の審査は現在時の車庫の大きさを対象として行なわれるのではない。問題は聴聞時における建築確認書または建築基準法四九条一項但書により特定行政庁の許可書の呈示の有無あるいは右処分書にかわるべき証明書の呈示の有無にあるのであつて、もしもそのような証拠書類の呈示がなかつたにもかかわらず免許したというのであれば格別、実際にはいずれも聴聞時に右証明書等を呈示しているのであり、これにもとづき免許が行なわれたのであるから、聴聞時に右の証拠書類を呈示しなかつた原告らをことさら異別に取り扱つたことにはならない。ちなみに、原告らの場合と全く同じ事由によつてその免許申請を却下された申請人は白雲観光株式会社他一一社もあることからして、被告が原告らだけを別異に扱つたわけでないことがうかがえるのである。

第五証拠<省略>

理由

一  本件免許処分の無効確認・取消請求について

被告は、本案前の抗弁として、本件訴えにおいて原告らが被告の原告らに対する本件拒否処分の無効確認・取消しを求めている以上、さらに被告の別紙目録記載各号の者らに対する本件免許処分の無効確認・取消しを求める法律上の利益はないと主張するので、この点について判断する。

成立につき争いのない乙第一号証第一三号証第一五号証、証人西村英一の証言(第一回)並びに本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、被告は道路運送法施行規則六三条一項の規定に基づく昭和三六年一月七日付及び八月二一日付の公示において、昭和三六年度の東京都区内一般乗用旅客自動車運送事業における増車台数を合計五五〇〇両程度とし、そのうち、既存法人事業者に対しては三七〇〇両程度、新規免許の申請者に対しては一八〇〇両程度について免許を行う旨定めたが、これに対し新規免許の申請をしたものは、原告らを含む法人格を有する会社七〇社、設立中の会社の発起人代表によるもの四〇八人、個人若干であり、右公示に基く免許申請に対して免許処分を受けたものは、新規法人関係についてみると、法人格を有する会社八社で一六〇両、発起人代表によるもの五五人で一一〇〇両であつたこと(なお、実際の免許処分件数は、個人タクシー一両を〇・五両と換算して、公示五五〇〇両に対して五七六二、五両であつた。)、及び被告は右各公示に基く免許申請の許否を決定するに当り、後に認定するように、道路運送法六条一項所定の免許基準を具体化した審査基準を設け、同法一二二条の二所定の聴聞手続を採用し、各免許申請について審査基準を適用し、審査成績高順位のものから順次免許を与えるという方法によつて免許の許否を決定したものであつて、別紙目録記載各号の者は前記発起人代表による申請に属するもののうち免許を受けたもの、原告らは前記法人格ある会社の申請に属するもののうち拒否処分を受けたものに、それぞれ該当することを認めることができる。このように別紙目録記載各号の者に対する本件免許処分と原告らに対する本件拒否処分とは、同一年度の公示に基づく法人関係の新規免許の申請に対して前記割当免許台数の範囲内において同一審査手続によつて審査決定され、かつ、相互に優劣の順位関係に立つ一連の処分であつて、右各処分に対応する申請は免許の取得について競争の関係にあるものである。

そして原告らは、自己に対する本件拒否処分の無効確認・取消訴訟を提起しているのであるが、後に判断するように本件拒否処分の取消請求は正当と認められ、原告らの勝訴の判決が確定すれば、原告らの本件免許申請は本件拒否処分がいまだ行われていない状態に復帰し、被告は本件拒否処分及び本件免許処分が行われた当時の審査基準にてらし、原告らの免許申請と競争関係にある他のそれとの比較において原告らの本件免許申請につきその許否を決定しなければならないのであるから、原告らは本件免許処分の適否を争つてその無効・取消請求に係る訴えを提起する法律上の利益を有するものというべきである。被告の右抗弁は採用しがたい。

そこで、本案について以下考察する。

別紙目録記載各号の者(いずれも設立中の会社の発起人代表である。)が道路運送法施行規則六三条一項による被告の昭和三六年一月七日付公示「東京都区内における一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力の増強について」に基づいて一般乗用旅客自動車運送事業の免許の申請をし、右免許につき運輸大臣から権限の委任を受けた被告が同年八月三一日に右申請に係る自動車運送事業の免許すなわち本件免許処分をしたこと、本件免許については「この免許の効力は会社の設立登記によつて生ずる。」旨の条件が付されたこと、及び原告らが同年一〇月三〇日に運輸大臣に対し本件免許処分の取消しを求めて訴願を提起したが、運輸大臣が右訴願提起後三箇月を経過してもなおこれにつきなんら裁決をしないことは当事者間に争いがない。

本件免許処分の違法事由について、原告らは、設立中の会社は権利能力がなく、法律上の人格主体たりえないから、道路運送法の定める自動車運送事業の免許の申請をすることができない。したがつて、別紙目録記載各号の設立中の会社に対する本件免許処分はその相手を欠く行政処分として無効であり、すくなくとも取消しうべきものであると主張するけれども、設立中の会社であつても、その発起人によつて道路運送法にいう自動車運送事業の免許の申請をすることを妨げられないし、設立中の会社のためにその発起人に対してした自動車運送事業の免許もまた有効である(もつとも、本件については免許の効力が会社の設立登記によつて生ずるとする条件付のものではあるが。)と解するのを相当とする。原告らは、また地方鉄道法一三条、軌道法二三条の各規定をあげて、設立中の会社の発起人がその免許(特許)の申請をすることができるのは、法律の明文の規定がある場合であるとし、このような明文の規定を欠く道路運送法のもとにおいては自動車運送事業につき設立中の会社の発起人による免許の申請を認める余地はないと主張するけれども、地方鉄道法一三条一項四号または軌道法二三条四号の規定は、その立言自体から明らかであるように、その運輸事業につきそれぞれ免許または特許を受けた者が設立中の会社の発起人である場合において、会社設立を公証する登記簿謄本の提出を義務づけた規定であつて、もとよりその運輸事業の免許または特許について設立中の会社はその発起人によつて申請することができることをとくに明らかにしたものではないし、道路運送法のもとにおいても、立法形式はともかく、実質同一内容の規定として同法施行規則四条二項一二号がある。これらの規定は、むしろその事業の免許(軌道法による運輸事業について特許)につき設立中の会社の発起人が申請をすることができることを当然に前提した点において軌を一にするものというべきである。原告らの右主張は理由がない。そして本件免許処分の無効事由については他に主張立証がない。そうすると、本件免許処分の無効確認を求める原告らの一次的請求はすでに理由がないことが明らかである。

つぎに、被告が本件免許処分に係る各申請を適法に受理し、調査として申請書の形式的審査(道路運送法五条、同法施行規則四条)、聴聞(同法一二二条の二)及び現地調査の各手続を経たうえ、審査会における許否の決定にもとづいて本件免許処分をし、その処分の結果を各申請人に通知したことは原告らが明らかに争わないところであるから、他に特段の事情の認めるべきものがないかぎり、本件免許処分につき違法のかどはないというべきである。本件免許処分の取消しを求める原告らの二次的請求もまた理由がない。

二  本件拒否処分の無効確認・取消請求について

原告らが道路運送法施行規則六三条一項の規定による被告の昭和三六年一月七日付「東京都区内における一般乗用旅客自動車運送事業の供給輸送力の増強について」と題する公示に基づいて昭和三六年二月一一日に被告に対して同法三条二項三号による東京都区内一般乗用旅客自動車運送事業の免許の申請をしたこと、被告が右免許につき運輸大臣から権限の委任を受けた行政庁として原告ワカバ交通株式会社に対し同年八月三一日付六一東陸自旅二第五四八二号指令書をもつて、原告エス自動車株式会社に対し同日付六一東陸自旅二第五五三〇号指令書をもつて、それぞれ右免許申請の却下すなわち本件拒否処分をし、東京都陸運事務所長が原告ワカバ交通株式会社に対し同年九月四日付六一都陸輸第五三五〇号通知書をもつて、原告エス交通株式会社に対し同日付同号通知書をもつてそれぞれ右指令書を送付して本件拒否処分の通知をしたこと、及び原告らが同年一〇月三〇日に運輸大臣に対し本件拒否処分の取消しを求めて訴願を提起したが、運輸大臣が右訴願提起後三箇月を経過してもなおこれについてなんら裁決をしないことは当事者間に争いがない。

そこで、本件拒否処分の適否について考える。

成立につき争いのない甲第一、二号証の各一、二、乙第一号証、第二号証の一、二、第三号証ないし第一〇号証、第一二号証、第一三号証、証人西村英一(第一回及び第二回)、同浜崎泰夫、同山下秀夫、同深谷春義の各証言並びに本件口頭弁論の全趣旨を総合すると、次のとおり認められる。

1  被告は昭和三六年一月七日付本件公示に係る免許申請については、申請人の行なう挙証にもとづいて審査を行なう旨を公示し、その頃そのために道路運送法一二二条の二所定の聴聞手続を採用した。そして免許申請の許否を決定するため、道路運送法六条一項所定の免許基準を具体化して、内部的に定めた二十数項目の審査基準(それぞれ更に数項目に分れたもの)を設け、右公示においてはとくに重視すべき審査項目(事実摘示第四、三(2)記載のとおり。)を列挙してこれを明らかにした。その一つとして「車両の管理及び道路交通の円滑化に資するため、車庫の立地及び収容能力が適正なこと」が挙げられたが、この審査項目に関し、被告は「都市計画法及び建築基準法関係法令上車庫の建設が支障ある計画を提出したものについては、原則として却下する。ただし、聴聞の日に車庫の建設が支障ない旨の証拠書類を提出したものについては、その理由だけでは却下しない。」という趣旨の審査基準(以下この審査基準を「却下基準」という。)を定立して聴聞担当者に了知させ(ただし、申請人に対する告知はしなかつた。)、かつ、車庫の立地及び収容能力に関する証拠を提出する機会を申請人に与える目的をもかねて道路運送法五条四項の規定にもとづき聴聞通知書中において「都市計画法及び建築基準法関係法令上車庫の建設が支障ない証拠書類」(持参すべき書類の項目(5))を聴聞の日に持参すべきことの指示をした。ところで、却下基準は、同法関係法令の規定のうち、建築基準法四九条一項(住居地域内の建築制限)が適用される場合についてみれば、「申請者提出の事業計画に係る車庫の床面積が五〇平方メートルを超え同項本文の規定に牴触している場合には、床面積五〇平方メートルを超えない限度でなら建築が許されることとなる場合においても、原則として、当該計画は車庫の建設に支障があるというだけの理由でその申請を却下する。ただし、同項但書の規定によつて同法にいう特定行政庁の許可を得て床面積五〇平方メートルを超える計画車庫を建築することができる場合においては、当該計画だけの理由でその申請を却下することはしない。」とする趣旨のものであるが、被告は、同年三月頃から七月末日頃までの間に、右の却下基準を適用して、本件公示に係る免許申請の全部の案件(一人一車制の個人タクシーの申請件数を別として、設立中の会社の発起人代表による申請件数は約四〇〇件、法人申請件数は約七〇件)について全聴聞手続を終了した。

2  ところで、被告は、前記一月七日付公示において、昭和三六年度における東京都区内の一般乗用旅客自動車運送事業の増強車両数は二〇〇〇両程度(新規免許の申請者に対しては八〇〇両程度とし、一人一車制個人タクシーを除く新規事業の規模は二〇両程度をもつて適度とした。)と定めていたが、その後の需給状況の変化や世論ならびに関係方面の要望もあつて、更に三、五〇〇両程度の追加増強の要請の気運が高まつてきたので、被告もその要請に即応する対策をとる必要に迫られた(その後の経過として、被告は、同年八月一五日付で東京陸運局自動車運送協議会に追加増強について諮問し、同協会の同月一九日付答申を得たので、同年八月二一日付公示で同年度内に更に三、五〇〇両程度の増強を行うことを策定公示するに至つた。)。

そこで、被告としては、車庫の建設に関する前記の審査項目(車庫の立地及び収容能力の適正如何)について、右の却下基準を忠実に適用するときは、一人一車制の個人タクシー関係と異り、とくに法人関係の申請の中には住居地域に床面積五〇平方メートルを超える車庫を建設する計画のものが、それだけの理由で全面的に不合格とされて、おびただしい却下件数を生じ、その場合の免許件数では、とうてい将来増加するであろう免許予定車両数約五、五〇〇両を消化しえないということが明らかとなつたので、被告は全聴聞手続を終了したのちにおいて、同年八月半頃になつて審査の一部手直し、採点のやり直しをはかり、次のような手続をとつた(このような審査の一部手直し、採点のやり直しの必要性については全聴聞手続が終るまで、聴聞担当者は関知せず、このようなことは申請人らを含めた関係当事者の念頭にさえもないことであつた。)。

すなわち、被告は、「床面積五〇平方メートルを超える車庫の事業計画を有する申請でその車庫の建設が建築基準法四九条一項本文の建築制限規定に触れるものは、本来却下基準にてらしてただちに不合格として却下すべきところ、聴聞当日現在において、床面積五〇平方メートルを超える車庫の建設計画のままであつても、証拠書類として、床面積五〇平方メートルを超えない範囲でならば法令に違反しないことを証明したものと解釈できるような証明書が提出されておれば、そのような申請については、とくに却下はしないで、他の審査項目について審査をし免許の許否判定の対象として取りあげる。ただその代りに床面積五〇平方メートルを超える計画の申請で関係法令上の建築制限規定に牴触しないもの(右却下基準を適用すれば、車庫建設に関する審査項目に関するかぎり一応合格点が与えられる。)との間に、評点差二五〇点(この二五〇点は各審査項目の評点の総計二五〇〇ないし二六〇〇点のほぼ一割に相当するものとして算出されたものであつて、車庫の建設に関する審査項目の評点は一〇〇点満点であるところ、この項目については一五〇点の減点という不利条件をつけたものにほかならない。)を設けて評点のやり直しをする。」という趣旨の新しい審査基準(以下「評点基準」という。)を定立した。そして評点やり直しの対象となる申請は、原告らのように新規免許の申請者についていえば、前記昭和三六年一月七日付公示や同年八月二一日付の公示にあるように、昭和三六年二月一一日午後零時三〇分まで東京都陸運事務所において受理されたものにかぎり、同日以後の追加申請や計画書の変更を一切認めないこと、また聴聞期日以外の証拠資料の提出は認めない方針がはじめから樹立せられていたので、審査採点の対象となる証拠書類も、既に終了した聴聞期日に提出されたものに限定し、当日以後の証拠書類の提出や聴聞は認めないで採点を終結するという方法で、右の評点基準の適用が行なわれた。

3  このような評点基準の適用を受けた若干の例についてみると、たとえば免許を受けた訴外蓮沼交通株式会社の場合のように、車庫建築坪数として、有蓋車庫一四坪、事務所一〇、五坪のほか仮眠室、食堂、整備工場、その他各種附属施設とその各坪数を列挙し、合計延坪数一〇一坪と記載したものについて、「都市計画街路に関係なし、建築安全条例第二七条一項第二号本文に牴触する。」旨を証明した東京都知事の証明書(乙第三号証)のような種類のものが多く、そのような書類があれば、評点基準の適用によつて、全面却下の処理はなされなかつた。

また同じく免許を得た訴外一番交通株式会社の場合のように、車庫建設坪数九三坪に対し「都市計画街路(計画決定)の境域外にあること。住居地域につき建築基準法四九条一項本文に牴触する。」旨を証明した東京都知事の証明書(ただし、首都整備局建築指導部指導課作成名義の符箋がつけられ、それには、東庫面積五〇平方メートル以上は不適格であるが、現地調査の結果建築基準法第四九条一項但書により公聴会及び建築審査会の同意を得られれば支障ない旨記載されている。)(乙第五号証)であれば、反対解釈により五〇平方メートルを超えないものについて適格の証明あるものとして、評点基準の適用を受け全面却下の取扱いを受けなかつた。これらの証明書は、右の却下基準を適用する場合には本来無価値なものであり、全面却下を招来する意味では、聴聞手続における申請人に不利益な反証であるのに、評点基準を適用する場合には、その聴聞手続においてかえつて申請者に有利な挙証があつたとみなされる、という余りにも便宜的な取扱いがなされたことになる。そしてこのような審査の一部手直しによつて、当初却下基準によつて全面却下となるべき事案が、結局評点基準に係る挙証があると認められて救い上げられ免許を受けたものが相当数生じた。このような手続の手加減があつた反面において、右のような証明書を提出しなかつた者や、聴聞担当者に対し後日床面積五〇平方メートルを超えない車庫建設についての建築確認書等の証拠書類を追完する旨を申出た者などは、評点基準の適用の上においても証拠の不提出をあえてしたものであるかのように取扱われ、審査採点の対象から完全に除外され、もつぱら厳格な却下基準のみによつてその免許申請につき拒否処分を受けることとなつた。

4  ところで、却下基準の適用の上において建築基準法と関係のない無蓋車庫の計画によつて免許を受けた案件もあつた。たとえば、訴外サンキユウ自動車株式会社の場合のように自動車車庫ではなく、床面積四〇・二五坪の事務所、仮眠所の建築確認通知書(乙第四号証)を証拠書類として提出して免許を受けた事例(この場合は建築基準法の適用を受ける有蓋車庫をはじめから作らず無蓋の車庫をもつてあてようとする計画によるものと推認される。)や訴外ムサシ交通株式会社の場合のように屋外車庫(すなわち屋外広場を自動車置場とするもの)の規模七三九、八六平方メートルの設置に関し、建築基準法四九条一項その他関係法令に定める事項に支障がない旨の練馬区長の証明書(乙第一二号証)の提出によつて、却下基準の適用の上において合格とされ免許を受けた事例などがある。これらの事例によると、被告は、審査項目の「車庫の立地および収用能力が適切なこと」の具体的基準として定立した却下基準に定める「車庫の建設」の中には、無蓋の車庫、すなわち野天の自動車置場を含ましめていたことになる。

5  被告は、右のような審査手続により、原告ら申請の事業計画はいずれも床面積一二五・六平方メートルの自動車車庫の建設を予定したものであつて、建築基準法四九条一項による建築制限がなされているのに、都市計画法及び建築基準法関係法令により車庫の建設が支障がない旨の証拠書類を各聴聞当日に持参提出しなかつたとの認定にもとずき、原告らの申請に対し評点基準を適用する余地はないとして却下基準を適用したうえ、右のような証拠書類の提出を伴なわない原告らの免許申請は、いずれもそれだけで道路運送法第六条一項三号及び五号に適合しないことになるとの理由で、それぞれ却下処分した。

このように認めることができ、右認定をくつがえすに足りる証拠はない。

次に成立につき争いのない甲第七号証、証人青木正男、同浜崎泰夫、同山下秀夫の各証言を総合すると、原告ワカバ交通株式会社が被告に提出した事業計画中自動車車庫については、床面積一二五・六平方メートルの有蓋車庫を建設するというものであり、昭和三六年四月一七日の聴聞期日において、同原告は、床面積一四・九八坪(四九・五二平方メートル)の車庫のほか、事務所、検車場等建物についての建築確認申請をした旨の杉並区役所の受付印のある書面を被告の聴聞担当者に示し、後日その写しを被告に提出したこと、同原告会社としては、床面積五〇平方メートルを超えない範囲の有蓋車庫以外の屋根の部分は建物のいわゆる下屋として建築基準法に牴触しないという見解をもつていたので、そのことを聴聞担当者に対して説明し意見を述べたことが認められる。

右認定に反する証人浜崎泰夫、同山下秀夫の各証言部分は証人青木正男の証言にてらして採用することができない。

また成立につき争いのない甲第八号証、乙第二号証の二、証人桜井薫の証言を総合すると、原告エス交通株式会社が被告に提出した事業計画中自動車車庫については、床面積一二五・六平方メートルの有蓋車庫を建設するというものであり、昭和三六年五月一八日の聴聞期日において、同原告は、住居地域で床面積五〇平方メートルを超える車庫の建設は建築基準法四九条一項に牴触する旨の世田谷区役所砧支所の証明書、床面積一四・五六坪(四八・一五平方メートル)の有蓋車庫床面積一三・七二坪の検車場等の建築確認申請をした旨の右砧支所の受付印のある書面を聴聞担当者に示し、後日建築確認通知書を被告に提出したこと、同原告としては五〇平方メートルの有蓋車庫以外の屋根の部分は建物のいわゆる下屋として建築基準法に牴触しないという見解であり、そのことを聴聞担当者に説明し意見を述べたことが認められる。右認定に反する証人深谷春義の証言部分は採用しがたく他に右認定を動かすに足る証拠はない。

右認定の事実によれば、被告は本件公示に係る免許申請の審査にあたつて道路運送法一二二条の二にもとずく聴聞手続を採用し、同法六条一項に規定する免許基準を具体化した二〇数項目の審査基準を内部的に設定し、そのうち、申請人の「事業計画に係る車庫の立地及び収容能力の適正」という審査項目に関してその挙証事項を具体化するため却下基準を設け、かつ、聴聞期日に同法五条四項により「法令上車庫の建設が支障ない証拠書類」を提出すべきことを指示して、全聴聞手続を終つたのち、右の審査項目に関してあらたに評点基準を補充設定して審査採点の一部やり直しをしたが、そのさい、原告らの免許申請に対しては、評点基準を適用する余地がないとし、原告らはいずれも聴聞期日に右証拠書類の提出をしなかつたとの認定にもとづいて、原告らのこの不作為が同法六条一項三号(当該事業の遂行上適切な計画を有するものであること)および五号(その他当該事業の開始が公益上必要であり、かつ、適切なものであること)の免許基準不適合を導いたものとして、原告との申請の却下、すなわち本件拒否処分をしたことが明らかである。

元来、道路運送法三条二項三号の一般乗用旅客自動車運送事業(タクシー事業)が、その免許を得たものにとつて財産的利益獲得のための重要な手段となつていることは顕著な事実であつて、その免許の許否は、免許の性質をどのように解するにせよ、国民の基本的人権の一である職業選択の自由に係るものであり、また同法六条一項各号の定める免許基準の内容は極めて抽象的であることにかんがみると、このような性質の事業について多数の免許申請人の中から少数特定の者を選択してその許否を決定すべき行政庁としては、内部的にもせよ、同条項の趣旨をある程度具体化した審査基準を設けてその公正、かつ、合理的な適用によつて法の趣旨を実現すべきものであることは、当然の要請であるといわなければならない。そして、免許申請の許否を決定するため審査基準を設けて事案を処理する場合、審査基準の定立又はその適用において、審査基準を設けた趣旨を逸脱し又は審査基準についての事実の誤認や不公正な取扱いなどがあれば、それは免許基準の適合に関する審査において裁量権の行使を誤る措置をしたものとして違法であるが、このような措置を基因として免許申請の拒否処分がなされたときは、かかる審査手続上の瑕疵は、審査基準の正当な適用によつて事業免許の許否につき判定を受けるべき申請人の法的利益を侵害するという点において、当該拒否処分の違法事由となるものといわなければならない。

ところで、前記認定の事実によると、次のように判断できる。

被告が本件公示において明らかにした重要審査項目の一である「車両の管理及び道路交通の円滑化に資するため、車庫の立地及び収用能力が適切なこと」を具体化するため内部的に設けた却下基準の内容は、「都市計画法及び建築基準法関係法令上車庫の建設が支障ある計画を提出したものについては原則として却下する。ただし、聴聞の日に車庫の建設が支障ない旨の証拠書類を提出したものについては、その理由だけでは却下しない。」というものであり、これを建築基準法四九条一項(住居地域内の建築制限)が適用される場合についてみると、「申請者提出の事業計画に係る車庫の床面積が五〇平方メートルを超え同項本文に牴触している場合には、(床面積五〇平方メートルを超えない限度でなら建築が許されることとなる場合においても、)原則として当該計画は車庫の建設に支障があるというだけの理由で、その申請を却下する。ただし、同項但し書の規定によつて同法のいう特定行政庁の許可を得て床面積五〇平方メートルを超える計画車庫を建築することができる場合においては、当該計画だけの理由でその申請を却下することはしない。」ということになるが、全聴聞手続が終つたのち定立された評点基準の内容は、「床面積五〇平方メートルを超える車庫の事業計画を有する申請で、右却下基準の原則相当部分に当るため却下されることになるものであつても、聴聞当日に、証拠書類として、床面積五〇平方メートルを超えない範囲でならば車庫の建設が法令に違反しないことを証明したものと解釈できるような証明書が提出されている申請については、とくに却下はしないで、右却下基準の但し書相当部分に当るため車庫建設に関する審査事項にかぎり一応合格とされるものとの間に、評点差二五〇点の不利条件をつけて、他の審査項目について審査をし免許の許否判定の対象として取り上げる。」という趣旨のものである。そして評点基準は、本件公示に係る免許申請についての審査基準としてはかなり厳格なものであつた却下基準を大幅に緩和した寛大なものであり、しかも評点基準を設けるにいたつたいきさつや評点基準の実際の適用事例からみると、その実質的内容は、結局、免許申請者の事業計画に係る車庫の立地が、建築基準法四九条一項本文により床面積五〇平方メートルを超えない範囲内であれば建築できる住居地域(都市計画法一〇条二項の風致地区もこれに準ずる。)に所在するかどうかという極めて簡単明瞭な事項に帰するものと解され、両審査基準はその意味において殆んど性質を異にするものということができる。

また挙証活動の面からみると、却下基準の内容は、「車両の管理及び道路交通の円滑化に資するため車庫の立地及び収容能力が適切なこと」という公示された重要審査項目を認識して挙証活動を行う申請人にとつては、聴聞期日における証拠書類の提出の指示とあいまつて、とくにその内容を告知されない場合でも、挙証についておおよその見当をつけることができないわけではないが、評点基準の実質的内容をなす車庫の所在地域というようなことは、右の重要審査項目にてらしてみると、余りにも内容稀薄な基準であつて、右の重要審査項目を念頭において挙証を行う申請人にとつては、その内容を告げられるか、挙証活動の目標を指示されるのでなければ、このような評点基準が右の重要審査項目の内容をみたす審査基準であり、かつ、その立証の有無が申請の死命を制するほど重要であるというような見当をつけることは困難なことであり、しかも挙証書類として、これにそう内容の証明書類を適確に提出することをも期待することは無理なことである。したがつてこのような審査基準の実質的変更を生じ、しかも従前の審査基準に関する聴聞手続による挙証によつて新しい審査基準に即応する適確な証拠を提出することが困難な場合には、道路運送法一二二条の二にもとずく聴聞手続を採用して申請人の行う挙証にもとずき審査を行う建前をとつた以上は、却下基準を適用すれば全面却下となるはずの免許申請者に対して(申請意思の喪失や挙証における不正行為等特別の事由ある場合は別として)、ひとしく聴聞その他適切な方法によつて証拠提出の機会を与えるべきであつて、特別の事由もないのに、あらたに挙証の機会を与えないで審査採点の対象から除外することは、審査基準を適用する上において不公正、かつ不合理な措置として違法であるのみならず、同法一二二条の二第三項にも違反するものというべきである(同条第三項の規定は、行政庁が積極的に聴聞を行う場合と利害関係人の申請により義務的にこれを行う場合とによつてその趣旨ないし精神を異にするものではない。)。

なお、被告は評点基準を適用して審査の一部やり直しをするにあたつて、審査資料を聴聞期日における提出書類に限定し、追完を許さなかつたが、評点基準の実質的内容が簡明であることや却下基準の適用においていわゆる無蓋車庫の計画によつて免許を受けた前記認定の事例及び評点基準の具体的適用事例などにおける証明資料の価値や記載内容を総合してみると、被告がそのように硬直、かつ形式的な手続をとらなければならない合理的理由があつたものとは認められない。もつとも、原告らが聴聞期日において提出した程度の証明書類では、原告らの申請は却下基準適用の上において全面却下を受ける場合に当るけれども、評点基準による審査のやり直しを受ける対象から原告らの申請を除外すべき特別の事由は認められないし、また原告らと同様却下基準適用の上においてひとしく全面却下を受けるはずであつた他の多数の申請者と差別して、原告らをはじめから全く証拠書類を提出しなかつたものと同一視して取扱うべき合理的理由もみあたらない。

そして前記認定事実に、前掲甲第七号証、第八号証、証人青木正男、桜井薰の各証言をあわせると、原告らの本件事業計画に係る車庫の立地がいずれも建築基準法四九条一項の規定による建築制限地域にあつて、評点基準に適合する証拠を提出することは原告ら本件免許申請人において簡易迅速になしうるところであつたし、もし被告が原告ら申請人に対し評点基準につき証拠を提出する機会を与えていたならば、評点基準に適合する証拠書類がただちに提出されて原告らの本件免許申請が被告の本件審査採点の対象となりえたものと推認することができる。

しかるに被告は、原告らに対し評点基準につき証拠提出の機会を与えることなく、はじめから証拠書類の提出がなかつたとの認定にもとずき、原告らの申請に対し評点基準の適用を受ける資格なしと判断し、他の審査基準を全然審査することなく、原告らの免許申請が道路運送法六条一項三号及び五号に適合しないため不適格と判断して拒否処分をしたことは、前認定事実のとおり、明らかであつて、もし被告が右のような審査手続上の違法の行為をなさず、原告らの本件申請に対して、評点基準の適用による審査のやり直しの対象として取り上げ、他の審査基準、したがつて同法六条一項所定の免許基準に該当するかどうかについて正当に判断を加えたとすれば、原告の免許申請の許否につき、本件拒否処分と異る結論に達する可能性が全くなかつたとはいえないのである(前記「事業計画に係る車庫の立地及び収容能力の適正」という審査項目に関する審査基準の外に、原告らの免許申請を不適格として却下すべき理由があつたことについては、被告は何ら主張立証しない。)

してみると、原告らの免許申請に対する拒否処分における前記審査手続上の瑕疵は、本件拒否処分の違法をきたすものといわなければならない。したがつて本件拒否処分は原告の指摘するその他の違法事由について判断するまでもなく、取消しを免れない。

ところで、右瑕疵は、まえに述べたところによれば、行政処分の無効事由たる重大かつ明白な瑕疵にみるにはいたらない程度のものであると解するのを相当とし、ほかに本件拒否処分の違法につき重大かつ明白な瑕疵があることの主張及び立証がないから、本件拒否処分を無効の行政処分というのはあたらない。本件拒否処分の無効確認を求める原告らの一次的請求は理由がない。しかし、右瑕疵が本件拒否処分の取消事由たることはすでに明らかにしたとおりであるから、本件拒否処分の取消しを求める原告らの二次的請求は理由がある。

三  以上述べた理由により、原告らの本訴請求のうち、本件免許処分及び本件拒否処分の無効確認を求める原告の各第一次請求はこれを棄却し、原告らの第二次請求中本件拒否処分の取消請求は正当であるから認容し、その余の請求はいずれも失当であるから棄却し、訴訟費用の負担につき民訴法八九条、九二条、九三条一項を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 緒方節郎 中川幹郎 前川鉄郎)

(別紙目録省略)

自由と民主主義を守るため、ウクライナ軍に支援を!
©大判例